特集-インタビュー

第12回 東京医科歯科大学教授 田中博先生が語る
医療ITの今後 医療再生における「EHR」の必要性とは

東京医科歯科大学教授 田中博先生 東京医科歯科大学生命情報学研究室教授
(医学博士・工学博士)
田中博先生
1974年東京大学工学部計数工学科卒業。1981年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。医学博士。1982年東京大学より工学博士。東京大学医学部講師。1987年浜松医科大学助教授。1990年マサチューセッツ工科大学客員研究員。1991年東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生命情報学研究室教授。1995年 同大学情報医科学センターセンター長併任。2003年同大学大学院疾患生命科学研究部教授, 同大学院生命情報科学教育部教授兼任。2006〜2010年同大学大学院生命情報科学教育部 教育部長併任、大学評議員。日本医療情報学会前理事長・会長。日本版EHR研究班リーダー。日本における医療ITの第一人者。

特定健診・保健指導のスタートにあたり、電子データでのやりとりが必須になりました。そのため、かなり混乱があったり、実際に負担が増大したと感じる方も少なくありません。医療とITについて先生のお考えを教えてください。

医療のIT化というと、医療事務作業の効率化や、国のデータベース作成のためと考えている方も多いと思います。でも実は、医療のIT化は、いまの医療における問題点である地域医療の崩壊、慢性疾患の増加、高齢社会の加速、医療供給・医療政策の非計画性などを解決するために重要な役割を果たすと考えています。


医療のIT化は具体的にはどのように活用されるのでしょうか。

私が提唱しているのは「日本版EHR」です。
「EHR(Electronic Health Record)」とは電子健康医療情報記録のこと。これにより、(1)国民ひとり一人が生涯にわたる健康医療情報を記録し管理できる環境をつくり、(2)この健康医療情報記録をネットワーク化することで、よりよい医療を提供する基盤をつくること、これを「日本版EHR」といっています。「日本版EHR」によって多くの問題を抱える医療を再生できるのでは考えています。


医療再生のためには、どのようなことが必要で、「日本版EHR」はどのように役立つのでしょうか。

東京医科歯科大学教授 田中博先生医療再生のために、3つのケアが重要と考えています。

第一に「生涯を通じたケア」を受けられること。昔の日本人は、病気にかかっているときだけ、医療機関に受診したり入院したりすれば、治って元の「健康体」に戻るというモデルがありました。ですからカルテなども保存期間は5年で良かったんでしょう。完全に治ってしまえばカルテは必要ありませんから。しかし日本人に急増している糖尿病などの慢性疾患は、一生付き合うことが必要な疾病です。そうなるとカルテが5年でなくなってしまうと困ってしまいますね。できれば、乳幼児期の健診や学童健診、学生時代の健診、そして生活習慣病の発生しやすい中高年期の健診などの「健診」と「医療」の情報を管理できるようにしておくこと、そうなるとやはり紙媒体では限界があります。そこで「EHR」が必要となるわけです。

第二に「地域連携によるケア」。地域の病院は大変疲弊しています。原因はいくつかありますが、医師不足に加えて、受診者が診療所だけでなく病院に集中することがあげられます。日本は、誰でも好きな医療機関にフリーアクセスできます。これは患者にとってよい制度だと思いますが、そのため、軽い風邪でも大学病院や中核病院にかかるといったことがおこり、本来の役割である専門的な治療に弊害がでてきています。

糖尿病を例にすると、健診で血糖値が高い、糖尿病の疑いありといわれた人は、やはり大きな病院の糖尿病外来に行く傾向が高いようです。病院の糖尿病外来に行くと、本当に患者さんがたくさんいます。その中には低リスクの方がかなりいます。薬をきちんと飲んでいますか、食事や運動の改善をきちんとやっていますかと聞かれる程度の方です。こういう方は、糖尿病専門医にかかる必要はありません。糖尿病をきちんと勉強している診療所で対応してもらえます。実際、大きな病院に何回か通うと、通院が1日つぶしの仕事になってしまうので、行かなくなってしまうんですよ。そのままにしているうちに、軽症であった糖尿病が取り返しのつかない合併症まで進行してしまいます。

これを解決するには、診療所と中核病院とが「連携」することです。診療所なら土曜日や夜間受診できるところもあります。診療所でしっかり診てもらえれば、自分の状態がわかるので、進行は食い止められます。また病状が悪くなったら連携している中核病院が診療しますので、安心です。

糖尿病は予備群を含めると日本国内で2200万人。一次予防は大切ですが、こんなに多くいる糖尿病患者さんを重症化させない、人工透析にしないことが、患者さん自身のQOLのため、医療費削減のために重要です。「“治療”から“重症化させないための管理”」への転換が必要で、これには診療所の役割が大切です。もし進行しても、連携がとれていれば、糖尿病専門の中核病院に病状をきちんと伝えて送り出してもらえますしね。

今や、病院は病院だけで医療を完結できなくなっています。病院のクリティカルパスを後方にのばして、診療所も病院をサポートできる態勢づくりが必要かと。糖尿病の治療も日進月歩です。地域で研究会を行うなどして、糖尿病の新しい薬や治療など、診療所に技術移転を行っていき、地域全体で地域の糖尿病を治療していくとう考えが求められています。

そのための基盤となるのがやはり「EHR」です。地域で糖尿病の診療データを共有化して、どの医療機関にいっても、患者さんの医療情報データがわかるようにしておけば、継続的な疾病の管理、治療をおこなうことが可能です。

そして第三に「日常生活圏で受けるケア」です。高齢社会における在宅医療はもちろん、脳卒中やがんなどの疾病も急性期以降、回復期からは自宅ケアできるようにしていく。医療の基盤を病院から診療所、そして日常生活にもっていくべきだと思います。在宅での疾病管理や、将来的には遠隔医療にも「EHR」が必要となってきます。

また、普通に日常生活を送っている人は、生活の中で測定した血糖値や血圧値を携帯電話などで通信し、データを蓄積していくといった疾病管理が可能となっていくでしょう。血圧や血糖を調べて記録しなさいといっても実際なかなか続きませんからね。健康管理を自分で行ううえでも重要な要素となります。


 

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