特集-インタビュー

第14回 独立行政法人国立精神・神経センター 認知行動療法センター
センター長 大野裕先生が語る
保健指導、日常にも応用可能な認知行動療法

独立行政法人国立精神・神経センター認知行動療法センターセンター長 大野裕先生 独立行政法人国立精神・神経センター
認知行動療法センター センター長
大野裕先生
1950年愛媛県生まれ。1978年慶應義塾大学医学部卒業と同時に、同大学の精神神経学教室に入室。その後、コーネル大学医学部、ペンシルバニア大学医学部への留学を経て、慶應義塾大学教授(保健管理センター)を務めた後、2011年6月より、独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター センター長 に就任、現在に至る。
慶応義塾大学訪問教授、講師(非常勤)を兼務。
近年、精神医療の現場で注目されている認知療法の日本における第一人者で、国際的な学術団体Academy of Cognitive Therapy の設立時からの会員であり、日本認知療法学会理事長。日本ストレス学会副理事長、日本うつ病学会や日本不安障害学会の理事など、諸学会の要職を務める。

今年7月に厚生労働省が「4大疾病(がん、脳卒中、心臓病、糖尿病)」に精神疾患を加え、「5大疾病」として重点的に対策に取り組むと決定したように、今やメンタルヘルス問題は地域や企業で働く医療専門職にとって重要課題といえます。専門職が、この課題に取り組むためにまずすべきこと、できることは何が考えられるでしょうか?

専門職の役割としては、大きく分けて2つあると思います。
ひとつは情報提供、いわゆる啓発的な役割です。精神疾患についての基本的な知識を持っていただいて、それを住民や社員の方にわかりやすく提供していく。もうひとつは実際に相談にのるという役割ですね。たとえば保健指導をされているときに精神的な悩みが出てきた場合、それを聞くという役割です。

しかし、このときに「カウンセリングをする」と難しく考えるよりも、その方がどんな問題を持っているかを聞き、どこに相談すればいいのかということを振り分けるような機能、すなわちゲートキーパーとしての機能を持っていただくことが大切だと思います。


メンタル疾患を抱えた方だけでなく、保健指導や面談の場でお会いする方の悩みに対処する場合にも、先生のご専門である「認知行動療法」の手法は有効でしょうか。

そうですね。認知行動療法は「ストレスや不安にどう対処するか」というスキルを身につけていただく方法です。認知とは、ものごとの受け取り方・考え方のことで、認知行動療法は、私たちの認知に働きかけて、気持ちを楽にしたり、行動をコントロールしたりする治療方法です。(認知療法・認知行動療法の医療場面での具体的な活用法は、厚生労働省HP「心の健康」をご覧ください。)
この手法を面談に取り入れていただくことで、対象者に気持ちを軽くするスキルを身につけてもらい、ストレスを感じている方はもちろん、予防策につなげてもらえればと思います。

実際に、企業の社員に対するストレス予防策として、認知行動療法のスキルを教えるという研究を行いました。一般の社員に認知行動療法のセミナーを3時間行い、1週間「うつ・不安ネット(※)」を使ってもらいます。その後、疑問点を聞いてさらに3週間使ってもらう。データをみると、9割の方が考え方が楽になったと答えていて、ストレス度が下がるという結果がでました。このように知識として知っていただき使ってもらうだけでも、役立つと思います。

また、面談などで対象者に向けてこの手法を使うだけでなく、専門職ご自身の考え方を整理することにも役立つと思います。ご自分が相談を受けた際に、その問題にどう対処していくか、どう絞り込んでいくか、そして現実的には何ができるのか、順を追って整理する手助けになります。


認知行動療法は、うつ病の治療としてだけではなく、考えを整理する手法としても有効なのですね。

独立行政法人国立精神・神経センター認知行動療法センターセンター長 大野裕先生そうですね。保健指導でも使えると思うのですが、認知行動療法のポイントは、過去に偏った考えを「今」に持ってくるということです。
落ち込んでいるときは、考えが過去にとらわれがちになります。だけど、過去は取り返しがつかない。しかし、今は変えることができる。そういうふうに考え方がシフトすると、今何ができるか、先が見えるようになります。
反対に「不安」は未来にしばられてしまうんです。こうなったらどうしよう・・・。でも、今から準備することはできる。だから、今に戻って何ができるかを考えるということです。

保健指導でも同じだと思います。メタボの方が「食事を変えましょう」といわれても、どうしようって思うんですよね。でも、段階的にひとつひとつやっていけば、達成感が生まれます。腹囲が1センチでも小さくなると、これからもがんばっていこうかなと思えるわけです。「どうせ何をやってもダメだ」と思っている認知を、「やればできるじゃないか」と思えるようにシフトさせていく。これもひとつの認知行動療法といえます。


日常生活の中にも、認知行動療法を組み込むことができそうですね。

認知行動療法は特別なものではありません。普段、友人の相談に乗るのと同じことなんです。悩んでいる友人に、まずは「何があったの?」と聞きますよね。悩みを聞いたら「大変だったね」と声をかけると、友人も自分の気持ちを語る。それを受けて「でもこういう考え方もあるじゃない?」と話していったら、相手も自分もだいぶすっきりした、という経験は誰しもお持ちだと思います。

このような「考え方の流れ」を「型」に落とし込むことで、より効率的にストレスを和らげ、気持ちを楽にすることができます。こうした対応を、型にはめてやるのが認知行動療法だと考えていただければいいと思います。

※うつ・不安ネット こころが軽くなる認知療法活用サイト

http://www.cbtjp.net/
大野先生発案・監修、こころの健康を高めるためのWEBサイト。PC、モバイル版があり、認知行動療法の具体的なスキルを習得し、うつや不安の対処法を身につけることができる。毎週金曜日には、大野先生からの書き下ろしコラムを配信。

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