特集-インタビュー

第15回 産業医科大学 産業生態科学研究所所長
産業保健管理学研究室教授 堀江正知先生が語る
産業保健スタッフのこれからのあり方
〜日本中でその職場のことを一番良く知る専門職になろう〜

産業医科大学 産業生態科学研究所所長 産業保健管理学研究室教授 堀江正知先生 産業医科大学 産業生態科学研究所所長
産業保健管理学研究室教授
堀江正知先生
1986年、産業医科大学医学部卒業。93年、カリフォルニア大学公衆衛生学大学院修士課程修了。日本鋼管(株)(現JFEスチール(株))専属産業医、京浜保健センター長を経て、2003年から産業医大教授。10年から同大産業生態科学研究所所長。労働衛生コンサルタント。医学博士。日本産業衛生学会指導医。

あなたの専門性、問題意識は
どこにありますか?

今日は、産業保健における専門職(職域の保健師、看護師、管理栄養士)の現状と、今後のあり方についてお聞きしたいと思います。
まず、これら専門職の現状について、先生はどのようにとらえていらっしゃいますか?

保健師については、文部科学省の指導により大学で大量に養成され、多くの方が学士の保健師として社会に輩出されていることもあり、「社会的ニーズを超えて存在している」という認識をもっています。また、保健指導は法的には、医師でも看護師でも管理栄養士でもできるし、実際もそうなっています。つまり「業務独占」がない。この2つの要因から、職域の保健師は非常に曖昧な状況に置かれているという認識をもっています。
さらに保健師を含め、産業保健スタッフをめぐる職場の環境も悪化しています。リーマンショック以降、日本経済が長期にわたる減速感に見舞われ、しかもそれは単なる減速ではなく、いつまで我慢すれば改善するのかわかりません。将来がまったく見えない状況に置かれています。

そのようななかで、保健指導の対象者である労働者は過重労働を強いられたり、生活面で不安のある中で仕事をしている。産業保健スタッフ自身の就業環境も決して安定していません。「給与が下がっている」という声も実際、聞いたことがあります。
ただ、そうは言いながらも、産業保健スタッフの皆さんには、一人一人がプロとしての誇りをもち専門性を高める努力を払っていただきたい。そのことが、企業、そして広く社会において認知されることにつながるからです。


専門性を高めるためには、何をすべきなのでしょうか?

重要なポイントは4つあります。

もっとも重要なのは「職域の保健スタッフとして、何が一番重要なのか? あなたの専門性、あなたの問題意識はどこにあるのか?」ということを、改めて認識することです。そしてそれは、「自分が担当している職場を知ること」だと私は考えます。その職場にいる労働者の働きざま、職場環境をていねいに知ること。これが産業保健の基本です。職場は刻々と変わります。私も2つの会社で産業医をしており、毎月、訪問していますが、1か月の間に突然、景気が悪くなったり、幹部が変わったりする。それだけで、職場環境は大きく変わります。そういったことを常にフォローすることが必要です。
別の言葉で表せば、「日本中でその職場のことを、一番よく知っている専門職は誰か?」と問われたときに、即座に「私です」と、自信をもって答えられるようになっていただきたい。これは保健師、看護師、管理栄養士だけでなく、産業医にも言えることです。

ところが医療の専門職の場合、往々にして「医療(だけ)の専門家」になってしまい、職場のことはあまり知らないことがあります。それでは、対象者の不調の原因が、職場にあるのか、個人的な要因なのか、切り分けられません。最終的な診断は医師ですが、その診断に役立つような情報を、産業保健スタッフの方々には収集していただきたいですね。実際、医師より保健師、看護師のほうが対象者の方も話しやすい、ということはあちこちの職場でよく聞かれるところです。


対象者の不調と職場との関連性を見きわめるために、どこに気をつければいいのでしょうか?

産業医科大学 産業生態科学研究所所長 産業保健管理学研究室教授 堀江正知先生そのために重要な視点が4つあります。
第1は、その症状を引き起こすような職場の要因が本当に存在するのか判断すること。たとえば頭痛に悩んでいるという相談を受けた場合、その職場で頭痛の原因がとなるものがあるかどうか、徹底的に調べます。脳血管を拡張させるような化学物質がないか、二酸化炭素濃度が高くないか、心理的なストレスを引き起こす要因はないか、等々です。そのうえで原因が判明すれば対処法を考える、無ければ無いということの証明になります。

第2には、その症状が時間的経過と関連性があるか、ということです。たとえば土日には一切の症状が消えるが、月曜日になると出てくる、とか、週の終わりに症状が悪化するといった現象が確認できれば、職場環境との関連性が強く疑われます。ある状況になると症状が出るとか、ある設備が導入されてから特定の症状を訴える人が増えた、など時間的経過を問診することは、原因の特定に非常に参考になります。

第3は「場の広がり」です。他に同じような症状が出ている人がいるか、あるいは、ある地点に近い人ほど、特定の症状が強く出ているかといったことです。産業保健スタッフは、対象者一人一人だけでなく、職場全体を管理しているわけですから、場の広がりも見る必要がある。またそれによって、自分が面談している人を超えて、職場全体の指導もできることにつながります。

第4の視点は、対象者が「職場以外で何をしているのか」ということです。職場以外の行動で、その症状につながるような環境や行動はないかを調べます。「親指が痛い」と訴えていたら、実は仕事帰りに毎日ボーリングをしていたのかもしれない(笑)。こういったことはぜひ、聞いておくべきです。
 これら4つの視点は、症状と職場環境に関連があるかどうかを判断するうえで、非常に参考になります。


コミュニケーション能力と
「見えないもの」を想像する力

そういった情報を対象者からうまく聞き出して、医師に伝えることが、産業保健スタッフの重要な役割ということですね。

そうですね。ただそこにはコミュニケーション能力が必要となってきます。

ひと口にコミュニケーション能力と言っても、人生経験も絡んでくる難しい問題ですが、少なくとも医療関係者だけに通じる隠語や略語を使うことはやめるべきです。対象者は白けて、やがて面談にも来なくなるでしょう。逆に保健スタッフは、職場で使われている隠語や略語を積極的に理解する必要があります。職場でみんなが知っている隠語、略語を、面談のたびに対象者に質問していたら、やはり対象者は嫌気がさしてしまうでしょう。

コミュニケーション能力だけでなく、現場に足を運び、二酸化炭素濃度など作業環境を測定し、客観的なデータから職場を理解・把握することも欠かせません。また有機溶剤等の扱い方など現場の作業を見たり、可能ならばその作業を実際にさせてもらうことも大切です。

「一般論の指導」では、対象者は絶対に納得しません。現場に根ざした指導をしてほしいですね。


メンタルヘルス不調のように、職場に足を運んでもその要因が見えにくい領域もありますが、そのような場合はどうすればいいのでしょう?

私もよく職場巡視をしますが、そこでもっとも重要なのは、「見えないものを、いかに想像するか」ということです。これは医療行為では常識なんです。X線写真を読影する時も、「写真に写っていないものを想像する」能力がないと、写真は読めません。

職場にも、目に見えないもの、五感で感じ取れないものは、無色無臭の化学物質、微生物などたくさんあります。夜間、この職場がどういう状態になるか、あるいは休み明けに初めて開錠した時に内部がどういう状況になっているか、ということも、実際に検証するのは難しいでしょう。やはり想像するしかありません。メンタルヘルスの領域も、想像するしかない部分が大きい。でも面談や職場巡視で「何か」を感じ取ったら、可能な範囲で上司や同僚にもヒアリングをしていくことが必要でしょうね。

問診や面談による情報、職場巡視の結果、自分の体を使った体験、客観的なデータ、そして想像力――。自分の能力をフルに使って、「日本で一番その職場に詳しい専門職」になること。これがプロではないでしょうか?

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