特集-インタビュー

第16回 東京都健康長寿医療センター研究所
高齢者健康増進事業支援室長 大渕修一先生が語る

特定健診の先にあるもの

大渕修一先生

東京都健康長寿医療センター研究所
高齢者健康増進事業支援室長
大渕修一先生

1964年(昭和39年)、東京都江東区生まれ。北海道函館市育ち。国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院卒業後、東京警察病院勤務。米国ジョージア州立大学大学院保健学研究科修了。北里大学医療衛生学部助教授を経て、2003年(平成15年)東京都老人総合研究所・介護予防緊急対策室室長。2012年(平成24年)から現職。

高齢者の生活機能向上や筋力向上トレーニングなどの第一人者として普及啓発活動にも努める。『健康寿命の延ばし方』(中央公論新社)、『一生ボケない、寝たきりにならない方法』(学研マーケティング)など著作多数。

厚生労働省の介護予防事業立ち上げ時からかかわられ『運動器の機能向上マニュアル』分担研究班の研究班長を担当。当時の上司である鈴木隆雄・東京都老人総合研究所副所長が『介護予防のための生活機能評価に関するマニュアル』の研究班長だったことなどから「基本チェックリスト」作成にもかかわる。

生活習慣病予防のための特定健診では、対象者は40〜74歳に限定されています。しかし、超高齢社会である今日の日本では、75歳以上の後期高齢者も多数存在し、健康についてもメタボなどの生活習慣病対策よりも、運動器の障害や衰弱など、高齢期特有の問題が生じてきます。そのような高齢期の健康を守るために、高齢者の健診として、その名も「お達者健診」を研究事業のひとつとして実施されている大渕修一先生にお話をお伺いしました。


高齢者を対象とした「お達者健診」は、どんな目的の健診ですか?

大渕修一先生日本では、ついに男性の平均寿命が80歳を初めて超え、女性の平均寿命は86歳を超えて世界一で記録を更新中ですね。平均寿命についてはある程度の成果が出ましたが、これから目標とするのは健康寿命の延伸です。

中高年期からの健診では、悪性新生物や心疾患、脳血管疾患、背景にある糖尿病という生活習慣病を中心としたプログラムになっていますが、健康寿命という点から考えると、自立した生活を阻害する原因というものも考えていかなければなりません。

具体的には、認知機能の低下による問題、高齢による衰弱、関節疾患、転倒骨折などがあげられます。

介護が必要な状態になる前になるべく早く発見し対処していこうという活動、ここをターゲットにした健診がお達者健診です。


お達者健診の具体的な内容について教えてください。

対象年齢は65歳くらいからです。

加齢に伴っていろんな症状が出てきますが、特に重要になってくるのは、後期高齢期になってからですので、その手前の65歳くらいから、定期的にチェックしたほうがいいと思います。

お達者健診の特徴的な検査項目の例

歩行速度を測る

イスに座った状態から、3メートル先にある目印(コーン)を一周してイスに戻り再び座るまでの時間を測定します。2回実施し、よいほうの記録で判定します。

咬合力テスト判定中のようす噛む力を測る(咬合力)

3分間ガムを噛み、噛み終わった後のガムの色の変化で判定します。よく噛めている場合はガムの色が均一に赤くなりますが、噛み合わせがよくない、力が入らない場合は色ががまだらになることも。
右の写真は薄い試験紙を力いっぱい噛み、測定器で判定しているところです。

認知機能テスト

時間内に決められた条件に当てはまる言葉(例:『か』からはじまることばなど)をいくついえるか、また、記憶力を判定する検査などがあります。

筋厚測定の画面表示例筋厚測定

太ももの筋肉の厚み、脂肪の厚さなどをエコーで測定します。 その場で画面表示されるので、自分の筋肉と脂肪の割合を見ることができます。

開眼片足立ち

壁に向いて立ち、片足を少し浮かせた状態でバランスを保ちます。どのくらいの時間立っていられるかを測定しますが、目安として、片足で1分間立っていられるかどうかで判定します。

その他にもいろいろな項目を検査

膝伸展力テストのようす他には、血圧、身長、体重、握力、骨密度、ひざを伸ばす力などいろいろな項目の検査を行います。

右の写真はお達者健診体験会にて、
ひざを伸ばす力を測っているところです。

 

 

普段自分が歩く速度を測定したことがない人がほとんどかと思いますが、歩行速度を測る検査は、高齢期のからだの状態を知るのにとても重要です。健康寿命を男女で比較すると、女性のほうが不健康な期間は長いんですね。この原因というのが関節疾患なので、足腰の問題、転倒骨折の問題などを検査で早く知るというのは大切です。

これらの検査では、結果として機能が高いか低いかを問題としているのではなくて、急に落ちていないかどうかを見るというのが目的です。 認知機能についてもそうです。客観的な認知機能の低下というものは、計算能力も含めて測定は可能です。


多くの方が気になる検査は、やはり認知の機能低下ではないでしょうか(私も含めてですが)。

大渕修一先生認知症については、不治の病のようにとらえすぎているのではと感じています。多くの場合はケアで対処できますから、病気というより生活機能の障害なんです。ですから、なるべく早めに診断を受けて、生活の中でケアのポイントをしっかりと考えていけば、大丈夫なこともとても多いと思います。

今は安全第一な世の中になってしまって、認知症に対して慎重になりすぎて遠ざけようとしてしまうのでしょうが、認知症は国民みんなの心配ごととして、みんなで取り組んでいくべきことですよね。

実は、お達者健診の主体者は自治体を想定しているのですが、自治体にとって、認知症の問題は疾病としてだけでなく、後見人の選定など、ともすれば権利侵害にもなりかねない情報も扱うことになるので、非常に手を出しにくい状態だと思うんです。ですから認知機能の評価はしにくいし、もししたとしても実際に認知機能の低下がみられる、といった場合にそれを引き受けられる窓口が整備されていないのが現状だと思います。

ただこれも、認知機能の高い低いだけをみるという考え方を少し変えて、高齢者がこれからの生活を考えていくために、自分の認知機能はどの段階にあるのかということを自分で知る、そして自治体も認知機能の検査をして、本人の状態を知らせるというのは、決して悪いことではなく、できるだけ自立して生活するために、また、認知症が進行したときの準備をするため、むしろこれからは必要になってくることだと思います。そうした意味で、今は転換の時期かもしれません。

大渕修一先生認知症には別の問題もあります。認知症はもともと心理学の研究対象として認知機能のチェックが行われてきたという側面があり、心理学の先生方にはご自分たちの思考モデルがあり、それらに基づいて評価表があるので、学者の数だけ評価表があるという難しさがあります。また、心理学の知能検査では、心理士が実施しなければならないものがあったり、評価用紙は決まったものを購入しなければならなかったりと、かなり制限もあります。

社会の中で、認知症で困る人の割合が少なかったときはいいのですが、これからを考えると、国レベルのデータを活用して基準値のようなものを、ある程度決めていくべきではないかと私は考えます。医学の専門の人と、心理学の専門の人が、現在のような社会情勢を考えてなるべく客観的に、ご本人たちの認知機能を調べられるものを提案して、使えるようにしていくことも大事ではないでしょうか。


何だか心配になってきました…。 健診を始める年齢は、もっと早くてもいいのではないでしょうか?

よくないということはないですが、高齢期に問題となる項目については65歳くらいからでよいという考えです。

ただ、女性の場合は骨粗しょう症と筋肉減少症、いわゆるサルコペニアが、閉経などホルモンの影響で50歳くらいから症状が出る場合もあります。あと引っかかってくるとしたらバランス機能を調べる「開眼片足立ち」の時間が短くなってくる傾向がありますね。

健診と少しはなれますがサルコペニアのセルフチェックとして、筋力が不足しているかどうかは、「指わっかテスト」がおすすめですよ。

<指わっかテスト>
親指と人差し指で“わっか”をつくり、自分のふくらはぎの最も太い部分をつかんでみてください。このとき足が細すぎて“わっか”がすかすかの人は、足腰の老化が要注意のサインです。 指わっかテストのイラスト


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