特集-インタビュー

第18回 順天堂大学大学院医学研究科公衆衛生学講座教授
谷川武先生が語る
睡眠呼吸障害を自覚し、より安全な社会をつくる

谷川武先生 順天堂大学大学院
医学研究科公衆衛生学講座教授
谷川武先生

1961年生まれ。神戸大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒業後、筑波大学大学院准教授、愛媛大学大学院教授を経て、2014年より現職。

睡眠予防医学を専門とし、睡眠呼吸障害がもたらす交通事故などの社会問題に警鐘を鳴らし続けている。厚生労働省、国土交通省の各種委員会の各種委員を務める。編書に『睡眠時無呼吸症候群スクリーニングハンドブック』。2002年日本疫学会奨励賞。2013年第9回ヘルシー・ソサエティ賞。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?


先生がご研究されている睡眠時無呼吸症候群(SAS)について、ご説明ください。

SAS(Sleep Apnea Syndrome)とは、睡眠中に呼吸が止まったり、止まりかけたりする状態が断続的に繰り返される病態(睡眠呼吸障害<SDB>)に加えて日中の強い眠気や疲労などの臨床症状を呈する症候群です。睡眠呼吸障害によって睡眠が分断されることで睡眠の質が悪化するとともに脳への酸素の供給も悪くなるため、日中に眠気を感じたり、居眠りをしてしまったり、集中力に欠けた状態となります。それによって、生活の質が低下し、さらに交通事故、労働災害のリスクが高まります。2003年2月に起きたJR山陽新幹線の運転士による居眠り運転の原因がSASであることが判明し、この病気がにわかに注目されるようになりました。

しかしながら、多くの睡眠呼吸障害罹患者は眠気を疲労と勘違いし、眠気に気づかず治療をしないため、事故などの社会問題につながっています。


SASは個人の健康問題にとどまらず、事故などの労働災害につながるリスクがあるわけですが、企業としての取り組みや、社会としてどのような対応が必要と考えられますか?

眠気を原因とする交通事故の割合は、事故全体の10〜30%を占めるといわれています。

日本では、毎年5000人〜7000人が交通事故で亡くなっています。SAS罹患者の事故リスクはSASでない人の3倍から10倍もあるといわれ、SASを治療すると、交通事故の少なくとも10%以上を減らせると考えられます。これは年間に我が国の500人以上の事故死者を減らせるという計算になります。

SAS患者を対象に過去の事故の状況を調査した結果、事故について「気がついたら」「ガクッと」「ふっと」という記載が多く、予兆なく居眠り事故を起こした事例が多くみられます。つまり、「眠い」という自覚がないのに、突然眠りに落ちることが多いということです。

徹夜をした後に猛烈に眠気をともなうのと違い、SASを含む慢性の睡眠不足状態では、眠気をともなわない居眠りに陥る可能性があることに注意が必要です。

従来、居眠りには必ず眠気がともなうと考えられてきましたが、眠気をともなわず、突然居眠りに陥る場合があることが重要なポイントです。

私はこれまでの研究結果、国内外の報告からトラックやバスなどの事業用運転に従事する人々に「眠気のない睡眠呼吸障害に注意!」という呼びかけを行い、早期発見・早期治療を促してきました。公益財団法人全日本トラック協会が平成17年度からSAS対策としてスクリーニング検査助成を実施していますが、他の業界でなかなか理解と行動が追いつかないのが現状です。


なぜSASへの理解が進まないのでしょうか?

谷川武先生 SASは、ほかの生活習慣病と異なり、定期的な検査が法律上求められていないことから、正しい知識の普及と定着にはいたっていません。

SASは治療が可能な病気ですが、自覚症状が乏しいため、治療を要する患者が200万人以上いると推定されているにもかかわらず、実際に治療を受けている患者は約38万人という現状です。だからこそ、職域におけるSAS対策は、SASの早期発見・早期治療につなげるためにも非常に重要と考えられます。

ただし、ただSAS患者を見つけ出せばいいというものではなく、社員が配置転換や解雇等の不利益を被らない十分な配慮、仕組みづくりを企業、産業医、産業保健スタッフが協力して確立することが重要となります。

国土交通省は2014年に「事業用自動車の運転者の健康管理に係るマニュアル」の一部改訂を行い、受診、治療及びその結果の把握を徹底し、疾病リスクを低減するための家族・職場ぐるみでの健康増進を推進し、早期発見・早期治療を可能とする社会環境を整備しつつあります。また、就業上の措置を講じるにあたっては、差別的な取り扱いを行うことなく、適切な措置を講じることとしています。

会社側は、SASと判定されたからといって運転業務からはずすのではなく、治療前には仕事の負担を軽くし、治療をしてからは運転業務にもどってもらうようにするべきです。万が一、ドライバーが運転業務中に事故を起こした場合は、本人が気づかぬうちにSASに罹患していたとしても、企業側にもSASスクリーニングなどの措置をとっていない場合、今後は民法上、監督義務者等の責任が問われる可能性も高まります(民法第714条、715条)。経費削減や責任回避のためにSAS対策に積極的に取り組まないことは、企業側にとってもリスクとなりますので、SAS対策に積極的に取り組むことが企業防衛上も妥当な判断となります。

交通機関や運送業などの事業場が定期的な検査を行うことが必須ですが、社会全体が関心をもち、正しい知識を身につけなければいけません。治療法の確立した病気ですので、きちんと検査を受け、治療を受けていただきたいと思います。


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