特集-インタビュー

第20回 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科准教授
佐野喜子先生が語る
保健指導の“いまだからこそ”の課題とは
〜現場での課題解決と、これからの重症化予防プログラムについて〜

佐野喜子先生 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科准教授
佐野 喜子 先生

神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科准教授。管理栄養士。女子栄養大学、順天堂大学大学院後期博士課程修了。東京都区内保健所勤務を経て、2004〜2013年株式会社ニュートリート代表取締役。2013年より現職。京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室研究医員として、糖尿病教育とカーボカウントに関する研究を行う。著書執筆多数、講演・研修会講師など、幅広く活躍中。

「受容」にプラス「リスク提示」で適切な情報提供を!


平成20年度に特定健診・特定保健指導がスタート。平成28年度には9年目を迎えます。いま、保健指導の課題はどんなことだとお考えですか。

特定健診・特定保健指導制度が始まり、保健指導に成果が求められ、行動ステージにあわせた対象者への働きかけが、評価の対象となりました。そのため、専門職の方の対象者への行動変容を促すスキルがとてもパワーアップされたと思います。

ただ、その「後遺症」が出てきているかもしれません。保健指導をするときに、「相手のことを受けとめましょう」といった「受容」という二文字が頭に浮かんで、うまく相手をおどかせていない、つまり、対象者にきちんとリスクを提示できなくなっているという懸念があります。
たとえば、40代で中性脂肪が300mg/dLの人にどのような言葉掛けをしますか? 数値の危険性を示すより「最近、少し飲み会が続いているせいでしょうか」などと容認するような聞き方をしていませんか。そうすると対象者は、危機感を抱くことがなく、「飲み会が続くとそんなものなんだ」と安心してしまいます。
そうではなくて、「あなたは40代でまだ若いのに、飲み会が続く程度で数値が上がるのは、許容の幅が狭くなっていませんか。今後50代60代になったときにもっと高くなりやすいですよ」と真実の見方を伝えていかないといけないと思っています。

相手を受け入れることと、その人に適切な情報を提供することは、相反するものではなく、共存するものです。対象者への適切な情報提供とは、その人が知りたい情報だけでなく、その人のいまの状況をきちんと理解してもらうことだと思います。
「あなたはいまこういう状態です。今後こうなるおそれがあります」と現状と将来のリスクを見せてあげないと本人は気づかないし、危機感を抱きません。その点が少し不足かと……。


確かに「受けとめる」と「おどかす」のバランスは必要ですね。保健指導を長く担当していたり、保健指導専門の会社にいたりすると、保健指導に“慣れる”ということもあるかもしれません。

指導者にとっては、日々繰り返す保健指導かもしれませんが、対象者にとっては年に1回の場です。例えば、50歳のときの健診結果は、その人にとっては人生で1回切りの「50歳の健診結果」なんです。私たち指導者は1日6人も7人も保健指導をするから、どうしてもマンネリ化せざるを得ないですが、対象者にとっては年に1回の機会。それを毎回忘れずに対応することが大切ですね。


保健指導の「手法」についてはどのような課題があると思われますか。

佐野喜子先生「可能性を想像する力が少し弱い」と感じています。
運動・食事の内容に限らず、睡眠などの項目も取り入れています、という方は、生活課題を幅広く扱っているかもしれません。しかし、それだけでは対象者の生活をイメージしきれていない気がします。「所属が替わられたばかりのようで、慣れるまで大変ですね。睡眠時間はちゃんととれていますか」などと、その人の状況や前回と“違う”ところを見たうえで、話題をふることが大切です。それが個々にあわせた対応だと思います。
同じ職場であっても、職位や担当が替わったりすれば、時間どおりにランチにいけなくなるなど、ライフスタイルに変化があるかもしれません。そういう生活の幅をイメージして聞いてほしいですね。

情報提供についても同様です。「自分だったら」どういった情報の提供のされ方をするとその情報に寄り添いやすいかということです。聞く情報、読む情報、見る情報に分かれます。一時、動脈硬化の危険性を説明するのに、映像で血液のドロドロとサラサラを見比べたものがありましたが、内容や人によって、その手段は異なります。目の前の対象者への教育効果が高い情報提供の方法は、どれかを考え、使い分けるということです。
例えば、「みんなが食べているときに自分だけ食べないなんてできない」と言う対象者には、視覚的に量を説明するより、「本当は食事を減らしたいのに、みんなと一緒だと遠慮して減らすことができない人がいたら、あなたはどう思いますか」と質問した方が効果的です。多くの対象者は「遠慮せずちゃんと食事を減らしてほしいなと思う」と答えるでしょうから、「そうでしょう。あなたの周囲もそう思うのでは」というように、対象者の考えを気づかせてあげる方が適しています。
相手に理解してほしい情報をどのように提供するかは、いつまでも課題ですね。


保健指導事業を企画・立案する上で、担当者の課題としてはどのようなものがあると思われますか。

対象者全体の特性を把握し、その特性にあわせた事業を立案していくことが大切です。特性には、男女の割合、世代構成、仕事の種類や職種が挙げられます。企画・立案担当者が陥りがちなのは、対象者を見るのではなく、個別指導か集団指導か、ポピュレーションアプローチかハイリスクアプローチか、といった方法論を考えてしまうこと。自分たちが“できる”保健事業や保健指導の尺度にあてはめていませんか。

保健指導の事業計画を立てるにあたり、集団指導を組み入れたいが自分には“自信がない”と感じているようでしたら、保健指導全体を集団指導にするのではなく、集団指導と個別指導を組み合わせる等などのマイナーチェンジから始めればいいのです。
個人面接の前に集まっていただき、「今日来られるときの気持ちは、①毎回同じだから時間の無駄、②また体重減らせ! と言われるのかな、③折角だからチャンスにしたいな、どれに近いですか?」などのアイスブレイクに続き、面接の目的、内容、今後の予定などの共通項を確認します。いわゆるオリエンテーションですが、対象者同士が仲間意識を持つ、安心感が生まれる、互いに競い合う気持ちになる、加えて頭が保健指導を受けるモードに切り替わるなどの効果があります。集団指導の良い要素を少し感じてもらうだけでも、対象者にとって前年度と違う保健指導となりますし、企画側、指導側、両方にとって「マンネリ化」の打破になります。新しい企画というと大々的に変えなければいけないと思いがちですが、こうした少しのアイデアと工夫で保健指導をマイナーチェンジするだけで、新しくしていくことができるのです。


集団指導の企画・立案もアイデアと工夫のマイナーチェンジで「マンネリ化」という課題の解決方法を見つけることができるんですね。こうした課題の解決では、指導者と事業の企画担当者の連携が重要と感じています。この辺はいかがでしょうか。

現場の指導担当と企画担当がチームを組んで、うまくコミュニケーションをとることは本当に重要です。厚生労働科学研究班が昨年度に宿泊型新保健指導※の試行事業を行ったときに、説明会、研修、報告会を通じて企画担当と指導担当にペアで出席をお願いしたところ、事業で目指した成果とは違う成果として、「連携のスキルが上がった。ほかの仕事にいかせる」という感想がとても多かったことがあり予想外の副産物でした。
こうした研究班の説明会には、事務方である企画担当のみの参加が多いのですが、そうなると現場の指導担当者は「やらされ感」が出てしまう。そこで説明会・研修会はペアで参加していただき、内容に応じてそれぞれが発表する場を設けました。
指導担当は自分の成果をアピールできる、企画担当はほかの実践例を聞き、自分たちが行っている事業を良くしたくなるという、企画担当、指導担当のやる気に相乗効果がでたのではないかと思います。いままで栄養士は栄養相談、健康運動指導士は運動の実践指導と分担していましたが、宿泊の食事内容を宿泊先と交渉するのを栄養士が担当したり、安全性を高めるために確認事項を増やしたりすることで、大変さもあったがチーム力が上がったといいます。
保健事業では多職種連携の重要性はわかっていても掛け声だけになってしまいがちですが、具体的に事業計画の中に仕掛けていくことで多職種連携ができる、そして担当者のスキルも上がり、事業自体も良くなることをこの事業で実体験しました。

※宿泊型新保健指導とは
生活習慣病を効果的に予防することを目的に、糖尿病が疑われる者等を対象として、ホテル、旅館等の宿泊施設や地元観光資源等を活用して保健師、管理栄養士、健康運動指導士等が多職種で連携して提供する新たな保健指導プログラムのこと。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/sls/


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