特集-リレー連載

タイトルどおりSNS保健指導向上委員会の現場に関わる会員の方を中心に、リレー形式で連載記事を執筆いただく企画。毎回、執筆いただいた方に「次はこの人にこれを聞きたい!」をお聞きし、バトンをつないでいきます。

第20回は、炭美子さん⇒洙田靖夫さん へのバトンです。

第20回
「生きるという事 〜震災後に感じたこと」

医師・労働衛生コンサルタント
洙田 靖夫(なめだ やすお)
(SNSハンドルネーム:ドラえもん)
兵庫医科大学在学中に危機管理に目覚める。同大学を卒業後、大阪大学医学部公衆衛生学教室研究生を経て、近畿大学医学部公衆衛生学教室助手。同大学を退職後は労働衛生の現場職を歴任している。内閣府・防災ボランティア活動検討会安全衛生部会座長。専門は危機管理。

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洙田靖夫さんからのひとこと
炭さんから「しばらくご療養されておられて、昨年無事復活されましたので、ご自身のご経験ほかふまえられて何かお話をお聞きできたらと思います」とのこと。震災後の状況や、災害ボランティア活動から、いま感じることなど書いてみたいと思う。

災害ボランティアの安全衛生の位置づけは?

先日(5月14日)、大阪大学医学部公衆衛生学教室の同窓会があった。同窓会に先立ち、仲間が集まって大いに談ずる会、集談会が開かれた。ここで、前教授で今は日本公衆衛生協会理事長の多田羅浩三先生の講演があった。21世紀の公衆衛生について、熱く語っておられたが、最後の方で、「自分のことはできるだけ自分で何とかする。これが21世紀の国の方針であり、代表例が特定健診・特定保健指導である」と言われた。

これに対し、洙田が「災害ボランティアが自分自身の安全確保のため、自発的に行っている事は『自分のことはできるだけ自分で何とかする』ことに通じると思うが、いかがか」と問いかけた。すると、多田羅先生は東日本大震災の復旧復興及び被災者支援のため全国から集まった災害ボランティアに対して謝意を述べられた後、洙田の問いを「是」とした。なぜ「是」とされたか、筆者の経験を踏まえながら詳述する。


未曽有の巨大地震発生。連鎖した津波災害、原子力災害

本年、すなわち平成23年3月11日金曜日午後2時46分、東北地方を中心とする巨大地震が発生した。東北地方太平洋沖地震(通称名:東日本大震災)と名付けられたこの地震はマグニチュードが9.0あり、阪神大震災(マグニチュード7.3)の約360倍のエネルギーを持つ恐るべき災厄であった。また、約30万人の犠牲者を出したインド洋大津波の原因となったスマトラ地震のマグニチュード9.3より、やや少ないものの大津波の襲来が予想された。

はたして、青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の各県沿岸部は津波に襲われた。岩手県宮古市田老地区は10メートルの高さの防潮堤が数キロにわたって延々と連なっている。このコンクリート製の防潮堤は、景観を破壊するものとして紀行文学などでさんざん揶揄されてきたものだが、津波はこの高さ10メートルの防潮堤を易々と乗り越え破壊し、田老地区に壊滅的な被害を与えた。津波は川を遡る。そして川の中流で遡る勢いを失い、川の堤防を越えて洪水となる。ただの洪水とは異なり、通常船舶など海の浮遊物を運んでくるので、破壊力も大きい。

以上の被害に加えて、原子力災害が起こった。ご承知のように東京電力の福島第1原子力発電所が津波の被害を受け、冷却機能を喪失した。そのため原子炉格納容器内の炉心部分が高熱となり、水が沸騰して水蒸気になった。これに放射線が作用して、水分子が分解して爆発性のある水素ガスが貯溜した。この水素ガスが何らかの理由により爆発し、原子炉格納容器内に発生していた放射性物質(=放射能)が飛散した。

公表されている数値を見る限り、取り立てて大騒ぎするほどではないものの、意図的なデータ隠しや測定ミスがあれば大変である。また現状は安全でも、近い将来、事態は急変するかもしれないので、退避措置がとられた。
避難した住民が故郷に帰るには、後6〜9ヶ月の期間が必要である旨が、内閣官房長官より発表されたが、その基礎となる東京電力の工程表に対して、実現可能性を危ぶむ声が上がっている。

これら地震災害、津波災害、そして原子力災害のため避難する被災者は多く、大阪府堺市に住んでいる洙田の息子の通っている小学校にも、群馬から転入生があった。東北地方太平洋沖地震の翌日、長野、新潟両県を中心とする震度6の地震があり、このため住家を失ったとのことだった。


震災という非常時に、最適な選択はなにか

洙田は、内閣府の防災ボランティア活動検討会の委員であり、同検討会内の安全衛生部会の座長をしている。しかし、3年前に脳幹部が出血し、生死の境をさまよい、意識を取り戻したのが倒れてから4ヶ月後であった。東日本大震災の起こった本年3月11日には、自宅療養にてリハビリを続けていた。ちょうどその時は、ビーナスケアセンターという所でデイサービスを受けているときだった。

地震が並々ならぬ規模と分かったので、洙田は、自分の持っている権限をすべて移譲し、安全なボランティア活動が確保できるようにした。実は安全衛生部会は座長が2人おり、厳密には共同座長と呼ばれる。洙田はこのもう一人の座長に権限を渡そうしたわけである。一方の座長は岡野谷という名で、東京在住もあって、被災地に赴くには適しており、フットワークが軽い。洙田は大阪に住んでいる上に、リハビリ中で車椅子生活しているので、非常に腰が重い。岡野谷は実践派で、洙田は理論派である。被災地の悲惨な有様を直に感じた岡野谷が突っ走り、これを洙田が理論を振りかざして押さえ込む。こうなれば、災害ボランティアの安全衛生が低下してしまい、被災者は確実に迷惑をかける。かかる事態は未然に防ぐ必要がある。どちらの座長がこの難局にあたれるか、国民を幸福にできるかということのみ考えれば、判断基準はわりと簡単かと思う。

かくして、座長の権限は移譲したが、岡野谷座長となかなか連絡が取れなかった。震災後、東京方面で通信量が飛躍的に増え、携帯電話がつながりにくくなっていた。そこで浜松医科大学公衆衛生学の尾島教授に岡野谷座長との連絡と関係者への通知を依頼した。尾島先生は快くお引き受けになられ、岡野谷座長への連絡と関係者への通知が行われた。


震災後の災害ボランティアの活動

その後、私どもの安全衛生グループ、すなわち安全衛生に関心を持つ災害ボランティアの集まりは、被災地に展開して復旧復興活動に従事している。また安全衛生に関する知識の普及も著しく、各地ボランティアセンターにどんどんと広まっている。そればかりではなく、各地災害対策本部も受け入れ始めた。私たちのグループではA4両面印刷1枚の「安全衛生プチガイド【PDF】」を作っているが、ある県の災害対策本部ではプチガイドを快く受け入れてくれた。そしてボランティアセンター等の関係先に配布することを承知して下さったばかりか、「この内容は私たちにこそ必要ですね」というお言葉までいただいた。

被災地には多くのボランティアの方が全国から集まってきている。被災状況を見聞きするなかで心を動かし、はじめてボランティアに参加する方も少なくないかと思う。ボランティア活動を被災という場において、ボランティア参加者と受け入れ側の両方にとってよりよい活動していくために、ぜひ知っておいていただきたいことがある。少し長くなるが、上記のプチガイドの一部を引用する。

『ボランティア活動は「こころざし(志)」が大切じゃ。その思いは、きっと被災した人に元気や勇気を与えることができるはずじゃ。

貴重な力を最大限に発揮するために、まず始める前に、自分の体調を冷静に振り返っておくれ。

(体調の)チェックリストを書いてみればおのずと分かるはずじゃ。

装備の準備はよいかな? 昔から「そなえあればうれしいなし」というからのう。活動する君らも、そこに住む人たちも、安全に活動し、暮らさなければならん。

仲間の体調も気づかって、みんな元気に帰ってくるんじゃよ。

みんなを守るボラ仙人』。

これは、前述した「災害ボランティアが自分自身の安全確保のため、自発的に行っている事は『自分のことはできるだけ自分で何とかする』ことに通じること」への答えにもなるかと思うが、自分を守る(安全や健康など)ことができてこそ、ボランティア活動が有意義とものとなり、継続的な活動となりえるのではと考える。


ボランティアも健康も、「自分を守る」ことが第一義

ボランティアをその元来の意味である「志願兵」と全く同義に考えて、何もかも負担させるのは間違った考えである。それは、ボランティアに対する甘え、それも過剰な甘えである。ボランティアは奴隷ではない。自分の身を守るということは自明の権利であり、これを侵害されれば、それは奴隷化と同義である。

自分の身を自分で守ることが当たり前の国では、公的機関に対する過剰な期待はない。むしろ自衛する手段を奪う者に対しては、それが国家権力であろうと激しい反発を示す。翻って、わが国では、国民個々の自衛権を戦国時代の秀吉の刀狩りに見られるよう、早期に「自分を守る」ことを委任してしまったかの観がある。そのため、自分で守るべき自分自身の「健康」や「安全」の管理を他人に委ねて不思議に思わない。だが本当はもっと自分自身で管理すべきである。

生きるという事は、当たり前のことであるが、健康で安全である方が良いに決まっている。だが個人または集団に災厄は降り懸かる。これら災厄に立ち向かう勇気が、いま一人一人に求められている。そのためには、自分で守るべき自分自身の「健康」や「安全」の管理が必要ではないか。


次回予告

洙田靖夫さん⇒岩室紳也さんへのバトン
「行動変容について事例紹介や、公衆衛生の専門家としてヘルスプロモーションについてもご教示いただきたい」とのこと。

次回をお楽しみに!

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