特集-リレー連載

タイトルどおりSNS保健指導向上委員会の現場に関わる会員の方を中心に、リレー形式で連載記事を執筆いただく企画。毎回、執筆いただいた方に「次はこの人にこれを聞きたい!」をお聞きし、バトンをつないでいきます。

第37回は、丸中 伸一さん⇒大津 智子さん へのバトンです。

第37回
「東日本大震災から、気づき、学んだこと。そしてこれからの課題」

岩手県総務部総務事務センター 保健師
大津智子(おおつ・ともこ)
(SNSハンドルネーム:めい)
岩手県公立学校教員(小学校養護教諭)として2校にわたり7年間勤務。
退職後、福井、新潟、岡山と転居し、日本銀行岡山支店で個別事務委嘱の保健師として勤務。
その後、岩手県内自治体の非常勤職員や臨時職員として、地域保健に携わる。
平成18年から岩手県総務部総務事務センターの非常勤専門職員となり、県職員の健康管理に携わる保健師として勤務。

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大津智子さんからのひとこと
小中学校の同級生でもある丸中さんから、リレー連載のバトンとして、「昨年3月11日に震災があり大きな被害に見舞われた地域の保健師さんとして、前後で大きく変化した事、ご苦労されている点などお聞かせいただきたいなと思います。」といただきましたので、発災時の状況やそこで学んだことなどを中心に書かせていただきます。

東日本大震災以降、メンタルヘルスがより重要に

私は、岩手県職員の健康管理を担当する非常勤の保健師です。共済組合の保健事業も同じ部署が行うので、特定健診、特定保健指導の業務にも従事しています。昔は、地方振興局勤務の職員の健康相談や保健指導を保健所保健師が行っていたそうですが、職員定数の削減により、今はどこの保健所の保健師にもそういう余裕はなくなったので、私たち健康管理スタッフ(常勤保健師1名、非常勤保健師2名、非常勤看護師1名)が、四国4県分の面積の岩手県内を、遠くは片道2時間かけて県庁から健康相談に行っています。

東日本大震災があってからは、沿岸被災地に勤務する職員へのケアとしてメンタルヘルス研修や健康相談、健康診断時に実施している全衛連のメンタルヘルスチェックの事後指導などで沿岸地域に出向く頻度が多くなっています。


被災者支援にあたる県職員の支援の必要性

震災が起きた当時、私は何をしていいのかわかりませんでした。
県庁には災害対策本部ができ、多くの職員は不眠不休で災害対応業務にあたっていましたが、総務部の非常勤職員である私には、被災地派遣の業務命令も災害対策本部の勤務もありません。そんなときに、私が保健師として行うべき災害対応業務は、被災者支援にあたる県職員の支援だという、一番基本的なことに気づかせてくれたのは、県災害対策本部医療班でDMAT(災害派遣医療チーム)のコーディネートをしていた岩手医科大学高度救命救急センターの秋冨慎司医師でした。

発災から1週間たった日、災害対策本部医療班にいた県の統括DMAT(複数のDMATを指揮、統制、調整、支援するリーダー)である真瀬智彦医師とともに、私の職場に来て、「災害対応県職員の心身のケアが必要だ」と話していかれました。

そのときの私の記録です。

「被災から1週間。災害対応に当たる県職員の疲労蓄積がひどく、体調管理が必要。家族等の安否がわからない職員も仕事にあたっているため、体調不良の職員の健康相談を依頼。災害時の心のケアが中心。スタッフが初期対応(スクリーニング)して、必要な場合、DMAT秋冨先生(岩手医大)の面談を受けさせるようにとのこと。」

真瀬先生は県立病院勤務ですが、前任が県の保健福祉部の医務主幹でしたから、県職員の健康管理担当が私たちの部署であることもご存知だったのです。
秋冨先生は列車事故や地震など数々の災害現場で医療支援を経験され、災害医療に詳しく、精神科の専門ではありませんが災害時のメンタルヘルスケアには対応できるとのことで、県庁勤務の職員の健康相談等を行うことを申し出てくださいました。


被災地へのケアしか考えられない状況のなかで…

秋冨先生を上司に紹介したところ、「被災地勤務の職員への支援をしなければならないのに、本庁勤務の職員のケアなんて…」と消極的な反応でした。発災当初はまだ、支援者への支援の重要性というのは、誰も考えもしなかったと思います。
しかし、家族や身内が被災したかどうか確認もすることが出来ず、災害対応にあたっていた職員も多数いました。発災後、県の展示場である、いわて産業文化センターが支援物資の保管倉庫となり、県庁舎や盛岡広域振興局、盛岡市内や周辺の出先機関の男性職員の多くが12時間交代で全国、世界各国からの物資の受け入れ作業にあたっていました。不眠不休で働くのは、被災地勤務の職員だけではなく県庁舎等で勤務する職員も同じだったのです。

そんな状況下で、DMATの秋冨先生は、県職員のケアをはじめ、被災地で必要な棺の手配、避難所での防犯対策の支援など、「困っている方への支援」という点から、専門職としての支援という枠を超え、あらゆる面に関わっていることに、私は大変驚きました。対象者が抱える問題が解決できるように他の支援につないでいくというコーディネート力の大切さ、そして支援は1か所ですべての相談に応じることができるワンストップサービスが望ましいことを、秋冨先生から学びました。


県職員の健康管理に役立つサービスを提供するには

また、秋冨先生は、災害時に住民に寄り添い支援する保健師の活動を非常に評価してくださっていました。地域全体を掌握でき、住民一人ひとりとその家族をわかっている市町村保健師だからこそできるワンストップサービスがあり、その活動を医療や福祉や行政が支える仕組みが必要だということです。

振り返って、私は地域で活動している保健師ではないのですが、日常の業務において、4000人以上の県職員、200近くある知事部局の各所属、公所の人を対象としています。各職場の状況や職員の健康状態等、傾向をしっかりと把握することで、職員のニーズにあった健康情報の提供や保健指導、そして災害対応業務に当たる職員の支援に生かすことができると考えています。

健康情報の提供として、私は職員向けの健康情報を書いてイントラネットの掲示板に掲出しています。2009年に発生した新型インフルエンザの流行時は、状況が変化するたびに健康情報を書きました。県感染症情報センターの情報が更新されるたびに、県内のインフルエンザ発生動向のデータと職員の罹患状況のデータを出したり、予防や対策もこまめに書いたりしていました。参考にしていただいた職員も多く、教育委員会主催の新型インフルエンザの研修会資料として提供したところ、いくつかの小学校の養護教諭から使わせてほしいという依頼もありました。

震災後は、メンタルヘルスの健康情報を書くように指示されました。未曽有の災害に一体どんな情報が必要なのか、途方にくれました。担当内で検討し、被災地派遣の職員が携帯して読めるようなものをということになりました。総務部長から「字が多いと読みたくなくなるから、簡潔に。」と指示され、思い切り内容をしぼったリーフレットを作成しました※

※こちらの内容については、財団法人 地方公務員安全衛生推進協会「地方公務員 安全と健康フォーラム 第80号」(2011年7月)の特集で「現地ルポ 県職員のケア―岩手県の場合―メンタルヘルス対策講座や健康相談などでセルフケア・ラインケアをサポート」という記事を書いていただきましたが、その中にも取り上げてもらっています(記事はこちら【PDF】)。

震災から1年目には、アニバーサリー反応(災害や事件・事故などが契機として PTSD となった場合、それが発生した月日になると、いったん治まっていた症状が再燃すること)について健康情報に書いたところ、総合防災室長(当時、災害対策本部の統括をしていた)から、よいタイミングで健康情報を書いてくれたと言っていただきました。
情報提供は、同じ内容でも掲出するタイミングで、読んでもらえるものになり、参考にしてもらえる情報になることがわかりました。だからこそ、常にアンテナを高くし、様々な機会から、職員の状況を把握するように努めていかなくてはと思っています。


業務に活用できるインターネット

私が保健師として仕事をする上で、インターネットがずいぶんと助けになっています。発災直後、禁煙マラソンのメーリングリストの地域版を通じて、岩手医科大学衛生学公衆衛生学講座の坂田清美教授が被災者支援について様々な情報提供をしてくださいました。災害時には心血管イベントが増えるとのことで、それを適切に予防することの必要性の資料を紹介してくださったので、被災地派遣の保健師に情報提供ができました。

この「SNS保健指導向上委員会」でもたくさんのヒントや気づきを得ることができます。私は養護教諭時代に、栄養・食生活について栄養士さんにいろいろ教えてもらっていました。私からも、給食は共同調理場だったので、直接子どもたちの声を聞く機会がない栄養士さんに、子どもたちの給食の感想などもこまめに連絡ノートに書いてお伝えするといった情報交換をしていました。いまの仕事の上では栄養士さんと接点がほとんどない私にとって、保健師だけでなく、栄養士さんがたくさんメンバーになっているこちらのSNSは、有用な情報がもらえてありがたいです。


生活困難を抱えた人を社会的に包み込もう

最近、私が興味を持っていることは、社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)です。いろいろな生活困難を抱えた人を社会的に排除しないで、社会的に包み込もうというものです。
東日本大震災により、様々な困難を抱えた人が社会から排除されるリスクが高まっている現状で、被災地においては社会的包摂をすすめるためにワンストップ型の相談事業やパーソナルサポートサービス(様々な生活上の困難に直面している方に対し、個別的・継続的・包括的に支援を実施する)の事業が行われています。私は、パーソナルサポーターの講座を受講するなどして、保健師の視点からのワンストップサービスのあり方を模索し始めているところです。

「社会的包摂政策を進めるための基本的考え方」(社会的包摂戦略(仮称)策定に向けた基本方針)
http://www.gender.go.jp/danjo-kaigi/kansi_senmon/06/pdf/kansi_giji_05.pdf

最後になりましたが、震災で大きな被害を受けた福島県、宮城県、岩手県には全国各地から多くの保健師派遣をいただきました。厳しい環境の中、被災した住民や自治体職員をたくさん助けていただいたことに御礼申し上げます。
そのほかでも派遣やボランティア等支援いただいた方々に感謝申し上げます。
震災から1年8か月経ちますが、被災地の復興は先が見えず、不安を抱えている住民が多数です。これからも折に触れて、被災地に心寄せてくださいますよう、お願い申し上げます。


次回予告

大津 智子さん ⇒ 川村 千穂さんへのバトン
おいしくてからだにいいごはんを作る栄養士さんは、不器用でカロリー計算が嫌いな私の憧れです♪
献立作成から保健指導までこなす川村さん、まず自分で試してみようという勉強熱心なところも魅力だと思います。保健指導のスキルアップのために取り組まれていることをお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。
次回をお楽しみに!

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脱マショウノオンナ 『保健師だより』私流のコツワザ集
ニッポンの健康づくり 辻一郎先生 津下一代先生 インタビュー
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