特集-リレー連載

タイトルどおりSNS保健指導向上委員会の現場に関わる会員の方を中心に、リレー形式で連載記事を執筆いただく企画。毎回、執筆いただいた方に「次はこの人にこれを聞きたい!」をお聞きし、バトンをつないでいきます。

第47回は、村田 陽子さん⇒押栗 泰代さん へのバトンです。

第47回
「新しい看護の創発をめざして」

押栗 泰代(おしぐり・やすよ)
(SNSハンドルネーム:PUSH)

滋賀県生まれ滋賀県育ち、親は徳島出身。徳島にしかない苗字です。
滋賀県総合保険専門学校を卒業後、大津市民病院勤務、人事異動で大津市役所へ勤務。出産後、退職。地域社協の依頼でボランティアを数年したのち、独立。滋賀医科大学にて修士取得。

商店街の中で「街の保健室」としてマイママhouseを設置。お母さんのための保健室を運営しながら、地域での保健事業支援、看護大学での講座、「街の保健室」構想と保健師の新しい働き方を提案している。修士論文では全国で開業する保健師にインタビューを行い、開業という形で保健師の新しい働きかたを提案した。現在「ゆりかごタクシー」の仕組みを構築中。

2000年4月 任意団体マイママ・セラピー設立
2011年2月 ナーシングクリエイト(株)設立。代表取締役
2011年7月 特定非営利活動法人マイママ・セラピー設立。理事長
2013年2月 一般社団法人日本開業保健師協会 理事

発表論文:
0歳児を育てる母親の「私の不安」
起業する保健師たちの活動から新しい保健師像を考察する
先駆的な保健師活動を考える
(日本地域看護学会誌 Vol15,No.1August,2012 原著論文)


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押栗泰代さんからのひとこと
村田陽子さんからは「刺激的な」と感じてくださり、「ぜひ押栗さんの夢を教えてください。」というお言葉をいただきましたので、夢に向けた取り組みを語ってみたいと思います。

“歩く保健室” 私の欲しかったものに私がなる!

役所を退職した後、地域社協からボランティアとして応援してほしいと依頼がありました。そこでは高齢者や親子の集まりなど活気ある活動が展開されていました。しかし、人が集まる「場」の提供はされるのですが、不安を抱えた母親の応援をする人材がなく、気がつくといつも自分の周りに不安そうな顔をした母親が集まってきて、悩みを訴えるということが続き、保健師という存在を求めている人が多いことを知りました。

自分が住んでいる地域では、ママたちがお買い物の途中でも、私を見つけると悩みを打ち明けてくれるのです。そのころから私は自分のことを「歩く保健室」と呼び、地域で身近な相談できる人になろうと考えました。それは、自分が子育てをしているときに、身近なところで私の声を聞いて応援してくれるスキルを持った人が存在しなかったこともあり、自分が欲しかった形を創るきっかけになりました。


アロマを媒体に始めた教室は大盛況に

できれば産後少しでも早い時期に不安や悩みを解決できるようにしたいと、「0歳児を育児するお母さん」を対象に教室を始めました。それまでの経験で、「保健指導」という言葉で人を集めることが難しいと理解していました。

そこで考えたのが「アロマ」。アロマをとおして、赤ちゃんのタッチケアを提供することにしたのです。13年前にはまだ「ベビーマッサージ」や「タッチケア」という言葉は浸透していませんでした。広報で募集をしたら一気に定員を超える応募があり大盛況のうちに6回シリーズの教室は終了したのです。


口コミで広がる「ここへ来れば救われる」と

教室終了後、毎回記名式で筆記のアンケートを書いていただきました。内容は「わが子のかわいいところ」「わが子の不安なところ」「私の不安」「教室に参加することは楽しいか」「参加して変化したことはあるか」などいくつもテーマを出しました。

楽しそうに参加しているように見えた人たちでしたが、多くの人が「どうしていいかわからない」という心の叫びを書き込んでいたのです。教室は必ずシリーズ開催なので変化がよく見えます。初回は会話ができない人や緊張して震える人もいました。回数を重ねるごとに表情にも変化が現れアンケートの内容にも変化が見られました。「私はネット中毒でした」「私は引きこもりでした」「イライラして手が出そうになる」などなど、自分の想いや悩みを表現してくれるようになってきたのです。集団の中でお互いのことを共感し合い、想いを共有できるようになると笑顔が出てきます。やがて、口コミで、この教室のことが広がり参加者からは「ここへ来れば救われると聞いて」そんな声が聞かれるようになっていったのです。


参加者の声を分析。ほんとうに必要なプログラムとは?

当時は地域の公民館を借りていましたので、次回の教室まで参加者と会うことができません。その間はメールで対応をしました。日中の相談は緊急内容が多く、22時を過ぎると自分の心の中にあることを書き出すという姿が見られました。深夜1時でも2時でもメールが届くと、すべてに一人で対応をしました。やがて、ママたちの中からメール・ルールなるものができて、「22時を過ぎた相談のお返事は明日でいいですよ」と一言が加わるようになりました。

数年後にふと感じたんです。「なぜ、いつまでもここに依存するのか」いつしかそんな疑問がわいてきたのです。「何か方法が間違っていないか?」「何かが不足していないか……」2007年メールの相談件数は1,000件を超えました。

『一度私自身が立ち止って考え直してみよう。』そう思い立ち、これまで集めたデータをもって大学院へ行きました。そのデータの分析をした結果、産後女性が抱える不安には「母親としての未経験の不安」と「女性としての生き方に見通しが持てない不安」という2つの要素があることがわかりました。
私は「女性として生き方に見通しが持てない不安」への対応を見逃していたのです。

この時に「0歳児を育児する母親」という言葉を「産後女性」という言葉に変え、生き方を各自が構築できるプログラムに変更しました。同時に「学習をする」「経験をする」「交流をする」「情報の整理をする」「友達を作る」という5つの柱を作り、メニューを変えたところ卒業していく人が増えるという形で結果はすぐに現れました。


保健師も一緒に成長する

教室に参加する人は全員が初対面です。ホームページを見たり口コミで聞いたりして一人で申し込んでこられますが、回数を重ねることでそれぞれの価値観を共有できるようになり、わが子しか見ていなかった人たちが、お互いの子どもにも目がいくようになります。最初は泣いていた人もやがて笑顔になり、自分たちで活動を始めます。

おそらくどの人も元から“自律する力”はあったのだと思います。ただ、産後のさまざまな変化と、育児という新しい環境に一時的にとまどい、将来が見えなくなっているだけではないでしょうか。彼女たちの中には、出産によってこれまで培ってきたものを、一時的に心の中にしまいこんでしまう人がいます。だからこそ、産後少しでも早く保健師が身近なところで専門的に応援することができれば、解決できることも多いと考えています。

出産は、人生における大きな出来事。自分自身はもちろん、夫や家族、周囲の人、環境にも大きな変化をもたらします。心理的にも物理的にも変化をもたらす「出産」を、新しいチャンスととらえて、自分の生き方を考えるきっかけ、成長につなげてほしいと思っています。その時に産後の女性への支援だけではなく、赤ちゃん、夫を含めた家族全員のライフスタイルを一緒に、考えていければと思っています。

産後の女性とのつながりをスタートに、家族や地域を継続的に応援できるとき「保健師やっていてよかったな〜」って思うこの頃です。そしてこの教室に参加する女性の話を聴いたり、共感したりしながら、それを教室のプログラムに組み込んでいきながら新しい自分を発見できたことで、一番成長したのは私自身だったんだと思います。


地域の声から実現化する「ゆりかごタクシー」

地元の商店街の中に「お母さんのための保健室」を作ったところ、昨年度は小さなこのお部屋に4,000人を超える人が利用してくれました。ここを利用する方の声から産後支援だけではなく、妊娠中からの支援を希望する声が出ました。妊娠中は助産師さんが丁寧なケアをしてくれます。「じゃあ私ができることは何だろう」と考えたとき、医療機関へ無事にたどり着くための手段をお手伝いができるかもしれないと思い立ちました。夫や家族がいないときに陣痛や破水が起こったら対応できる手段は、「タクシー」だと思ったのです。

先ずはリサーチ。100人アンケートの結果、陣痛が始まってから自分で運転して産科へ行った産婦さんが4人もいました。タクシーを使わない理由は「汚したらどうしよう」「断られた」「慣れていない人だと不安」。またドライバーさんのアンケートからは「破水で汚されたら困る」「何かあったら怖い」など共通した不安の理由が見られました。共通する不安を解決すればこれは実行に移せると確信が持てました。陣痛した妊婦さんへの対応を研修した「頼れるタクシー」があれば安心できるに違いないと。

ただ、この事業は私たちだけではできません。県のタクシー協会へ新規ビジネスとして提案したところ国交省の協力もあり、話は一気に進みました。県の産科婦人科医会、看護協会職能助産師、県、市、消防局で委員会が立ち上がりモデル事業としてこの秋から運行することが決まりました。その名も「ゆりかごタクシー」です。
これまで東京方面ではタクシー会社が独自のサービスとして陣痛タクシーを運行していることは知っていました。今回は、行政、民間、NPOが協働して取り組む全国初の取り組みです。


大切なのは、ここに集まる人たちの声を形に変える仕組み作り

私のテーマは「新しい看護の創発をめざして」です。保健師目線で、地域の人の声を吸い上げ、それを形に変える仕組みを創ることにいつもワクワクします。ゆりかごタクシーもその一つです。そしてただ今、次の事業として看護の視点からみた病児介護服のリフォームを企画中です。
社会の保健課題は大きなことばかりではありません。小さな保健課題を抱える人たちと接して、その支援にこれまで取り組んできました。保健師の力だけでは足りない部分を多くの人や組織が助けてくださった結果、13年に渡り継続して活動を続けることができたと思います。

【夢の実現・・・それは】
学校に保健室があるように、企業にも保健室があるように、街の中にも保健室を創りたい。その目標数は1000か所。
社会の中では健康情報が氾濫しています。そんな情報の荒波のなかを進んでいくために、住民の方が気軽に相談に立ち寄れる場、「街の中の保健室」が必要ではと感じています。ほんとうに正しい情報はなにか、必要なものはなにかなど、自分にとって有意義なサービスを提供してくれる保健師と、利用する人をつなぐ仕組みを創りたい。それがこれからの課題として取り組みたいことです。


次回予告

押栗 泰代さん ⇒ 松山 由美子さんへのバトン
松山由美子さんは、新潟で開業する保健師。産後ケアを、チームを組んでしておられます。この事業は厚労省も期待を寄せている事業ですが、実際には経費がかかり、ケアを受ける方の負担が高額になる可能性があります。実際にはどのように取り組んでおられるのか具体的なところをぜひ聞いてみたいと思います。
次回をお楽しみに!

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